重い映画でした。何も考えず楽しむ娯楽映画ではないですね。主要な登場人物がそれぞれ心に闇をかかえ、悩み、苦しんでいるため、気持ちに余裕のない人が観ると、かなりブルーになってしまうと思います。
また、ロリコンの女子誘拐という誰しも嫌悪感を感じる特異な事件が話の軸となっているため、そういうものに生理的な不快感や嫌悪感を感じる人もやめといたほうがいいのかな。
しかし、私にとっては素晴らしい作品でした。密度の濃い映画鑑賞時間を過ごすことができました。文学やアート好きな人にはお薦めできます。
この物語に描かれているのはペドフィリアよりも広い意味の性愛。全ての人間に共通する人生の喜びと足枷です。
性愛は生殖のためのものでありますが、時として我々に生きる喜びや意味を与えてくれます。それと同時に、我々を悩ませる鬱陶しくて面倒な本能です。我々の遺伝子に組み込まれていてるため、誰も逃れられません。
その性愛とうまくつきあい、コントロールできる人もいますが、多くの人は何かしら悩まされることになります。人によっては、誰かを傷つけたり自分を破滅させたり、人生に大きなダメージを与えることもあります。
でも大事な問題であるのにも関わらず、人と気軽に相談できる話ではありません。社会通念上、性愛は個人のプライバシーに関わることなので、たいていの人は表面に出すことをタブー視しています。
この映画には、性愛に問題を抱える男女が登場します。病気で性器が未発達になってしまった男と、家族から性的虐待を受ける少女です。ふたりとも性の問題から人生の歯車が狂ってしまい、それが事件を起こす原因となり、苦しい人生を送ることになりました。
もし、性というデリケートな問題でなければ、人と言葉で語って、誰かに支えてもらうことができたかもしれません。ただ不器用な二人は、お互い寄り添うことしかできなかったのです。
二人以外の脇役も性愛で傷つき悩んでいます。映画をみながら、性愛の問題で誰もが苦しむということを再認識し、考えさせられました。
役者さんの演技もよかったです。特に主演の広瀬すず。最初に長いベッドシーンがあり、こんなポルノのようなシーンを広瀬すずが!とかなり驚きました。ただ、物語が進行するにつれ、広瀬すずの演技の表現力に魅了されていきました。広瀬すずは、その端正な容姿だけでなく、繊細な心を表現できる素晴らしい女優に育っていると感じました。
松坂桃李は一番難しい役だったと思いますが、狂気すれすれに悩む繊細な若者をyまく演じていました。危うげな存在の空気感がスクリーンから伝わってきました。年齢的にオジサンになりかけているので、もうちょっと若ければ完璧だったとは思いました。
横浜流星のクズ男っぷりも見事。たんなるイケメン俳優ではなく、役というものにしっかり取り組んでいて感心しました。今後が楽しみな俳優さんですね。他、広瀬すずの若い時を演じた子役もなかなかでしたね。
映像もよかったです。状況を説明するための映像ではなく、観客の感情を動かす抒情的な映像づくりが丁寧に行われていて、撮影・編集の感性と努力を感じました。素晴らしい。
今年の映画賞をたくさんとりそうです。
私は映画を観た後に、レビューサイトでいろんな人の感想を読みます。一緒に観に行った人がいれば感想を交換できますが、一人で行ったときは、レビューサイトがそのかわりになります。
原作本がある場合、映画の批評は必ず、あのお気に入りのシーンがないとか、原作にないシーンがあるとか、そういう意見が多く目にしました。原作と映画は別物なので、やっぱり映画を先に観たほうがよいのかな、と思います。